種々の問題が生じても道路を一般交通の用に供することができるよう、私権の制限や道路に関する妨害の排除、違法放置等物件に対する措置、監督処分、工事施行命令、沿道区域といった問題に対処する方策が道路法に定められています。
〔目次〕
道路の敷地と私権の制限
道路の敷地のなかには、登記簿上の所有権者が道路管理者などになっていない土地もあります。 それらの土地は、無償使用許諾などで道路になっていることもあれば、道路になっている経緯が明確でないこともあります。
道路の敷地のなかの民有地を道路敷地民有地とか敷民といいます。 道路敷地民有地を含めて、道路の土地は私権が制限がされます。 道路の土地の所有権を持っている人や、持っていると主張する人などが、土地の引き渡しや賃借料の支払いを求めたり、通行を妨げたりすることはできません。
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道路に関する妨害の排除
道路における禁止行為
次のことは禁止されています(道路法 第43条)。
- みだりに道路を損傷し、又は汚損すること。
- みだりに道路に土石、竹木等の物件をたい積し、その他道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為をすること。
この規定は道路予定地にも適用され(道路法 第91条第2項)、違反した場合は1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(道路法 第102条3号)。
禁止行為への対応
違反があったときは、状況に応じて次のような措置をとります。
- 行政指導
- (民法上の妨害排除請求)
- 違法放置等物件に対する措置
- 略式代執行
- 監督処分・代執行・告発
これらの規定は道路という公物管理上の必要に基づくもので、この他に交通警察権に係る禁止行為が道路交通法に(道路交通法 第76条)、往来妨害罪が刑法に定められています(刑法 第124条)。
道路上の物件に対する対応
道路法には、様々な不法行為に対応するために監督処分から始まって代執行や告発などに至る一連の対処法が定められています。 路上放置車両や道路上に不法に置かれた物件(不法占用物件)については、監督処分等のほかに、それぞれの対処法が定められています。
路上放置車両については、車両の状況に応じて警察と分担して対応するほか、やむを得ない場合に移動することができます。
違法放置物件(不法占用物件)については、廃棄物としての処理、違法放置等物件としての除去、その他の不法占用物件に対する監督処分などを行います。
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監督処分や代執行など
道路管理者は、道路での不法行為などに対応するため、違法放置等物件に対する措置や放置車両等の移動、監督処分、行政代執行、略式代執行などができます。
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工事施行命令、原因者負担金
交通事故でガードレールを損傷したときや、荷崩れで特別な清掃などが必要となったときなどは、原因者に復旧工事や清掃をさせたり、道路管理者が工事や清掃をしてその費用を原因者に請求します。 前者のしくみを工事施行命令とか原因者工事といい、後者を原因者負担金といいます。
工事施行命令、原因者工事
道路法第22条第1項に次の定めがあります。
道路法 (昭和27年6月10日法律第180号)
(工事原因者に対する工事施行命令等)
第二十二条 道路管理者は、道路に関する工事以外の工事(以下「他の工事」という。)により必要を生じた道路に関する工事又は道路を損傷し、若しくは汚損した行為若しくは道路の補強、拡幅その他道路の構造の現状を変更する必要を生じさせた行為(以下「他の行為」という。)により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持を当該工事の執行者又は行為者に施行させることができる。
2 前項の場合において、他の工事が河川法(昭和三十九年法律第百六十七号)が適用され、又は準用される河川の河川工事(以下「河川工事」という。)であるときは、当該道路に関する工事については、同法第十九条の規定は、適用しない。
〇「他の工事により必要を生じた道路に関する工事」の例 1)
- 堤防の嵩上工事に伴う橋の改築工事や取付道路の嵩上工事
- ダム建設工事により水没する道路の代替道路の建設工事
〇「他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持」の例 1)
- 交通事故で損傷したガードレール等の復旧工事
- 大量の油漏れや荷崩れによる積荷散乱のために特別に行う清掃
- 水道管の漏水によって破損した道路の復旧工事
原因者工事の施行命令を出すことができるのは、原因者が工事を施行しても道路管理に支障を及ぼすおそれのない場合に限られます。 交通事故の復旧などの場合は、命令する相手を保険会社などに限っている道路管理者が多いようです。 保険会社などが復旧を迅速に行わないときは、工事施行命令の取り消しを通知し、道路管理者が復旧工事を行って原因者負担金を請求します。
原因者が工事施行命令に従わないときは、道路管理者は行政代執行をすることになります。 この場合、監督処分を経る必要はなく、それに要した費用は行政代執行法の規定で徴収します 1) 。
原因者負担金
原因者工事の施行命令を出さずに、道路管理者が自ら原因者工事を行ったときは、その費用を原因者負担金として原因者に請求します(道路法 第58条)。 原因者が負担金を支払わない場合は、延滞金を含めて国税滞納処分の例により強制徴収することができます(道路法 第73条)。
1) 道路法令研究会編著、改訂5版 道路法解説、大成出版社、2017、P.152〜154
沿道区域と沿道制限
沿道区域の指定
道路構造の損害や交通の危険を防止するため、道路管理者は片側幅20m以内の沿道の土地を『沿道区域』に指定することができます。
沿道区域内の土地などの管理者は、道路構造の損害や交通の危険を防止する措置を講じなければならず、道路管理者はその措置を命じることができます(道路法 第44条)。
土地所有者等の本来の責務
民有地などからの木の枝の張り出しや、倒木、落石、土砂流出などを防ぐことは、下記の民法の相隣関係の定めのとおり、民有地の所有者や工作物の占有者などが負っている責務です。 その瑕疵によって他人に損害を生じたときは、民有地の所有者などが被害者に賠償する責任を負っています。
- 民法 第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り、枝の切除もできるよう改正)
- 民法 第234条(境界線付近の建築の制限)
- 民法 第237条(境界線付近の掘削の制限)
- 民法 第238条(境界線付近の掘削に関する注意義務)
- 民法 第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
令和3年の民法改正 (令和5年4月1日施行予定)
民法が改正され、令和5年4月から下記のとおり越境された土地所有者が、越境した枝を切り取ることができるようになります。
第233条第3項 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。
枯れた立木の倒壊による人身事故と民法717条2項の瑕庇 (大阪高判昭和53年4月27日)
原野等に生育している樹木や枯木は、民法第717条第2項にいう竹木に当たらないという解釈が一般的です。
しかし、交通量の多い街道筋の場合は、それだけ危険発生の蓋然性が多いから、山林、原野の所有者や占有者にその倒壊による危険防止義務が生じるとした裁判例があります 1) 。
沿道区域の土地所有者等の責務
沿道区域の土地所有者等への措置命令は、土地などの管理者に本来課せられている義務の履行を命じるものに過ぎず、新たな義務を課すものではありません。 この措置命令に応じない場合は罰金に処せられ(道路法 第106条)、道路管理者は監督処分などが行えます。
土地管理者等に大きな負担が生じる問題
従前の道路法には損失補償の規定がなかったため、竹木の枝の切除などの軽微な措置は求めていたものの、民有地からの落石や土砂崩落などを防ぐ落石防護ネットの設置や浮石除去などの、土地管理者に大きな負担が生じる措置を求めることは困難で 1) 、沿道区域を指定する道路管理者も限られていました。 その一方で、道路管理瑕疵の裁判では落石事故などで「事故が予見できたのに防護施設の設置や浮石の除去など有効な対策を講じなかった」として道路管理者が敗訴するケースが多くありました。
そのため、沿道区域内の土地等の管理者に対する措置命令に係る損失補償が、必要に応じてできるよう、平成30年(2018)3月31日に道路法が改正され 2) 、指定区間内の国道に係る沿道区域の指定の基準も平成30年9月30日に定められました(道路法施行令 第35条の3)。
なお、道路警察権にかかる類似の規定として、道路交通法に警察署長や警察官が沿道の工作物等の危険防止措置などを講じることができることが定められています(道路交通法 第82条、第83条)。