道路の管理瑕疵

 道路などが通常有すべき安全性を欠き、他人に被害を及ぼすと管理瑕疵が問われます。

 どのような状態の時に管理瑕疵が問われるかは、具体的個別的に判断され、それが判例として積みあがっています。

 管理瑕疵が問われることがないように、適切に道路を管理することが必要です。 管理瑕疵があって被害が生じたときは、適切に賠償事務を行う必要があります。

道路の管理瑕疵

 道路に『設置の瑕疵』や『管理の瑕疵』があって他人に被害が生じたときは、国又は公共団体は被害者に賠償する義務を負います。

 『設置の瑕疵』とは、例えば道路法第29条(道路の構造の原則)に反して不備な道路を作ってしまったときなどに、『管理の瑕疵』とは、例えば道路法第42条(道路の維持又は修繕)の努めを果たさなかったときなどに考えられます。 実務上は、両者をあわせて『道路の管理瑕疵』と言う場合が多いようです。

 『道路の管理瑕疵』がある状態の具体例は次のようなものです 1)

  • 一定の状況における道路の損傷の放置
    (舗装路面の破損、橋の高欄の破損等の放置)
  • 路上障害物の放置
    (土石、竹木、工事用機械・材料の放置)
  • 道路工事又は占用工事等の際の安全措置の不履行
    (標識、防護柵、警戒灯等を設置しないこと)
  • その他適切な管理権を行使しないこと
    (耐荷力の小さい橋等について荷重制限をしておかないこと等)

 どのような状態が『道路の管理瑕疵』にあたるのか、瑕疵があるときの道路管理者と被害者の責任の割合がどうなのかについては、学説や判例の推移を見守る必要があります。 『道路管理瑕疵判例ハンドブック 2) 』や月刊誌の『道路行政セミナー 3) 』が詳しいので参考にしてください。 当サイトでは、事件の分類や事件名などはこれらの書籍となるべくあうように記載してしています。

 また、古い判例を見る場合は、状況の変化に注意をする必要があります。 例えば、判決が出た時点では技術基準に合致していたために管理瑕疵を問われなかったものの、現在は技術基準が改訂されていて管理瑕疵を問われる場合もありますし、昔は整備水準が低かったために管理瑕疵を問われなかったものの、現在では同様の事例でも全体の整備が進んでいて管理瑕疵を問われる場合もあります。

国家賠償法第2条1項

 国家賠償法第2条1項に『道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。』と定められていて、道路管理者が被害者に賠償するときの根拠は、ほとんどが本条になっています。

 「公の営造物」とは行政機関が事実上管理して公の用に供しているものをいい、普段、管理をしている道路より広い概念のものを指します。

 「設置又は管理の瑕疵」とはその道路が「通常有すべき安全性」を欠いている状態をいいます。

 なお、「予見可能性」や「回避可能性」がないときには管理瑕疵がないとされることもあり、被害者にも過失がある場合には「過失相殺」で賠償が減額されます。

国家賠償法第2条1項と実務

 国家賠償法第2条1項が道路の実務にかかわる側面はふたつあります。 ひとつめは、道路管理瑕疵が起こらないよう適切に道路を管理していくにはどうすれば良いのかという問題です。 ふたつめは、道路管理瑕疵による事故が起こってしまったときに、どのように状況を把握して賠償の要否や過失相殺の割合を決めるのかという問題です。

 具体例で説明します。

 予想を超えた集中豪雨は「予見可能性」がないので、それで道路が陥没しても管理瑕疵はありません(広島地判平成5年2月24日)。 その災害の補てんは生命保険や車両保険で行われ、道路管理者が賠償するものではありません。 また、「予想を超えた集中豪雨」を前提に排水施設などを整備すると過大支出になってしまいます。

 一方、しばしば落石や崩土が起き通行上危険のある道路では、対策を講じるか、通行を止めないと管理瑕疵が問われます高知国道56号落石事件参照)。 事故が起きれば賠償責任が生じますし、そうならないよう対策工事をする必要があります。 危険な箇所の対策工事をする予算が措置できないときは、あらかじめ「異常気象時通行規制区間」を設定し一定以上の降雨があったときに交通規制を行ったり、客観的に崩土の予兆があれば道路法第46条により通行を禁止しなければなりません。

 また、管理瑕疵が疑われる事故の連絡を受けた場合は、「穴ぼこ・段差に関する事故」の項で一例を示してありますが、「瑕疵の判断」や「過失相殺」に影響する状況を適切に把握・記録するとともに、危険を回避する保安措置を講じたり補修する必要があります。 管理瑕疵があった場合、ほとんどが示談で解決されており、「道路賠償責任保険」を活用している自治体も多くあります。

 このほか、道路パトロールで沿道からの倒木の危険がないか確認していることや、交通事故の油漏れの処理を原因者が行うのを待たずに道路管理者が行っていることなど、日常業務で行っていることのいくつかは、管理瑕疵の判例が発端となっています。

管理瑕疵の概況

 データが古くなりますが全体を俯瞰できる「平成18年度道路管理瑕疵実態調査 1) 」によると、平成14〜18年度の年平均で、道路管理者が賠償金を支払った管理瑕疵事案は日本全国で年間4,076件ありました。

 事故のパターンでみると、最も多いのが穴ぼこ・段差による事故で1,760件/年(43%)でした。 二番目が蓋不全による事故で729件/年(18%)、三番目が落石による事故で408件/年(10%)、その他の分類は10%以下でした。 道路管理者別に件数をみると、下表のとおりです。

 また、国土交通省九州地方整備局管理に限られますが、近年の国道(指定区間)の状況は下図のとおりです。

表−道路管理者別の管理瑕疵件数(平成14〜18年度)
道路管理者 国土交通大臣 高速道路会社
(旧公団)
都道府県知事 政令市長 市町村長 合計
瑕疵件数 141件/年
(3%)
217件/年
(5%)
1,242件/年
(30%)
317件/年
(8%)
2,136件/年
(52%)
4,076件/年
(100%)
図表出典〕出典〕「平成18年度道路管理瑕疵実態調査 1) 」をもとに、当サイト作成

 

[道路管理瑕疵の件数のグラフ]

図−九州地方整備局管理道路での道路管理瑕疵件数(平成22〜26年度)

図表出典〕道路管理瑕疵の未然防止に向けた取組みについて 2)

穴ぼこ・段差に関する事故と対応実務

 舗装の陥没やくぼみ、路面の凸凹、舗装部と未舗装部や側溝などとの段差、マンホールなどの突出などにより、車がパンクしたり、二輪車や原付、自転車が転倒するなどの事故です。 瑕疵の判断は、ケース毎の状況判断に基づき行われているため、どの程度の穴や段差が管理瑕疵を問われるかという答えはなさそうです。 雪解けの時期には舗装にポットホールという「穴ぼこ」ができやいので融雪期に多発するといった特徴があります。

 詳細ページで、瑕疵の判断や過失相殺、初動対応とともに説明しています。

スリップに関する事故

 路面の凍結や流出油によりスリップしたり、滑りやすい歩道での事故です。

 積雪が路面に凍結して滑りやすい状態になっていることは、「道路管理者にとっても無関心では済まされない」が、「本件程度の積雪凍結状態である限り道路管理者に常時路面の凍結解消措置をとるべきことを義務づけることはできず(大阪高判昭和50年9月26日)」管理瑕疵がないとの判決をはじめ、管理瑕疵がないという判決が多い一方で、「凍結防止剤の再散布が可能であった(大阪高判昭和51年3月25日)」等の理由で凍結が回避できたとして過失相殺のもと管理瑕疵を認めた判決もあります。

 凍結しやすい高架道路や橋梁上で凍結防止剤の散布などの対策を講じなかったり(名古屋高金沢支判昭和55年8月27日)、側溝が詰まっての溢水が凍結している(東京高判昭和43年12月24日)のに放置していたものなどは、過失相殺のもと管理瑕疵を認めた判例があります。

 交通事故による油漏れも、「交通に支障を与えている場合には除去しなければならない(高松高判昭和56年10月9日)」と判示されています。

路上障害物に関する事故

 前車からの落下物、第三者や道路管理者が置いた物件、沿道から張り出した樹木や倒木、路肩等の雑草、放置車両などによる事故です。

 前車からの落下物について管理瑕疵を認めた判例はみつかりませんでした。 道路に置かれた物件については、不法物件であっても管理瑕疵を認めた判例があります。 沿道から張り出した樹木や倒木や放置車両等については、判例が分かれます。

 前車からの落下物、第三者や道路管理者が置いた物件、沿道から張り出した樹木や倒木、路肩等の雑草、放置車両などによる事故です。

落石に関する事故・道路崩壊に関する事故

 道路より上の斜面からの落石が車両に当たったり、道路より下の斜面が崩壊して道路通行者が転落し、もしくは道路が崩壊して道下に被害を与えたなどの事故です。

 落石による事故は管理瑕疵を問われることが多くなっています。

 道路崩壊による事故は、異常な天然現象などの不可抗力で起こったものでなければ、管理瑕疵を問われています(静岡地判昭和55年4月25日、名古屋高判昭和56年8月6日)

排水施設の不備に関する事故

 路面排水や側溝排水が不適切で沿道に被害を与えた事故や、冠水したアンダーパスに入った車両が水没するなどした事故です。

 道路排水が沿道に被害を与えた事故の多くは、因果関係により、管理瑕疵の有無が判断されています。

 冠水したアンダーパスなどでの事故の多くは、不可抗力か否かで管理瑕疵の有無が判断され、注意を欠いて冠水箇所に入ったことで大幅な過失相殺が認定される場合が多いようです(最高判平成13年12月20日、広島高判平成11年5月27日)

大分県道側溝転落火傷事件 (大分地判昭和47年7月26日)

 自転車で通行中の小学生が、沿道民家から摂氏80度の温泉の熱湯が流入していた無蓋側溝に転落して火傷を負った。

 判決は、「蓋をするか」温泉源所有者に「パイプを付設することを許して、事故発生を防止すべき義務」があるとして、道路の管理に瑕疵があるとした。

路肩部分で起こった事故

 路肩は、車両制限令で自動車のはみ出しが禁止されていますが、実態として狭い道路で離合のために乗り入れたりする場合があります。 路肩の穴ぼこや崩落による事故は、車道のそれとは異なる条件のもとで管理瑕疵が判断されています。

車両制限令 (昭和36年7月17日政令第265号)

(路肩通行の制限)

第九条  歩道、自転車道又は自転車歩行者道のいずれをも有しない道路を通行する自動車は、その車輪が路肩(路肩が明らかでない道路にあつては、路端から車道寄りの〇・五メートル(トンネル、橋又は高架の道路にあつては、〇・二五メートル)の幅の道路の部分)にはみ出してはならない。

道路構造に起因する事故

 急カーブや交差点、車線減少などの道路の構造に起因する事故です。

 交通事故を起こした人が、カーブが急だったので事故を起こした、歩道がないから歩行者を轢いたという理由で道路の管理瑕疵を問う訴訟を起こしていますが、無謀運転などに起因する事故は管理瑕疵を認められていません。

 道路構造令や技術基準を遵守した道路構造であることは、管理瑕疵がないと判断される重要な要素ですが、法令や技術基準を遵守しているというだけでは状況によっては不十分で「通常有する安全性」がなく管理瑕疵があると判断される場合もあり得ます。

 標識や雪崩防止柵が建築限界を犯していたり(神戸地姫路支昭和60年10月28日、金沢地判平成9年11月11日)、中央分離帯の始まる箇所で分離帯の先端中央部までセンターラインが引かれていた(千葉地判昭和47年8月2日)というような状況で管理瑕疵を認めた判例があります。

 道路や路肩の幅員が狭まるところ(福岡地判昭和49年1月29日、大津地判平成7年1月10日)や、拡幅道路から現道への擦りつけ部(仙台高判平成11年7月30日)、道路の終端部(旭川地判昭和48年5月18日、横浜地判平成9年4月25日)、水路等の開口部(宮崎地判平成3年7月26日、神戸地豊岡支平成12年9月9日)などが解りやすくなっていなかった状況のもとで管理瑕疵を問われた判例があります。

橋梁の不全に関する事故

 橋梁の高欄などにすきまや破損などの不備があった場合や、橋梁部が狭かったり旧橋が撤去されているのに解りやすくなっていなかった場合、橋梁の耐荷力が低下しているのに通行制限をしていなかった場合などの事故です。

 橋梁の耐荷力が低下している場合は重量制限の標識の設置が必要です(東京高判昭和54年7月23日)。 橋の幅員が狭くなっているときは、「橋のかかり口の手前に照明又は遠方から視認できるようなガードレールを設置し、あるいは進路手前に先方で道路が狭くなる旨を予告する道路標識を設置するなどの措置が必要(東京地判昭和42年3月27日)」です。

側溝等の蓋不全に関する事故

 無蓋側溝や用悪水路に落ちた事故のほか、有蓋側溝と無蓋側溝の境目での事故、蓋の隙間や破損による事故、マンホールの蓋の段差による事故などです。

 無蓋の側溝に落ちたという事件では、管理瑕疵がないとする判例が多い一方で、例えば度々溢水して路面との識別が困難な箇所(奈良地判昭和57年3月26日)などで過失相殺のもと管理瑕疵を認めている判例があります。

 有蓋側溝が無蓋側溝に変わる箇所の事故では、例えば、柵や照明もなく識別が困難な箇所(東京高判昭和55年3月19日)などで過失相殺のもと管理瑕疵を認めている判例があります。

 側溝蓋に隙間があったり、蓋が外れていたり、蓋が壊れていたための事故は、直前に壊れたというような「回避可能性」のないものを除き、過失相殺のもと管理瑕疵を認めている判例が多いようです。

 車両が蓋に乗ったときに蓋がはねた事故は、管理瑕疵を認めている判例(岐阜地大垣支昭和54年10月31日、鹿児島地判昭和51年1月30日)があります。

ガードレールの不全に関する事故

 ガードレールがないために事故の被害が拡大したもののほか、ガードレールに大きな隙間があるなど不全なもの、ガードレールを突き破った事故です。

 ガードレールの設置の要否については、『防護柵の設置基準』がありますが、判例では、『道路の安全性の判断にあたっては、法令上の安全基準のみならす通常予想される危険を防止し得るか否かをも考慮すべき(仙台高判昭和56年12月9日)』とするなど個別具体に判断されています。

 無謀運転でガードレールを突き破った事故などは道路管理瑕疵がないとされていますが、ガードレールのエンドポスト(端部の支柱)が見えにくく衝突した事故(長野地判昭和48年6月29日)や、切れ目が広く開いていて転落した事故(大阪地判昭和52年6月30日)などのなかには、過失相殺のもと管理瑕疵を認めた判例があります。

 また、路端に高低差があったり(福岡高判昭和51年8月15日)、水路や川がある(奈良地判昭和57年3月26日、神戸地伊丹支昭和60年5月22日)など転落すると危険な箇所の事故のなかには、過失相殺のもと管理瑕疵を認めた判例もあります。

まとめ

 道路管理瑕疵の判例には、どのような状態の道路が危険なのかが示されています。 管理瑕疵を問われた事例を理解して、同様に危険な箇所を発見し対応していくことが必要です。 また、対応に時間がかかったり、予算の限界などで対応できない場合には、例えば標識等を設置して警告するとかの安全対策を講じる必要があります。