路肩部分で起こった事故

 路肩は、車両の通行の用に供されるものではなく、多くの場合、安全に走行することができない構造になっています。
 そのため、路肩走行で事故が起こったときは、車線を走行していたときとは違う判断で、管理瑕疵の有無や過失相殺が考えられます。

路肩部分で起こった事故の概要

崩壊した路肩の写真

崩壊した路肩

写真出典〕当サイト撮影(H30.8)

 路肩は、車両の通行の用に供されるものではなく、車両制限令で自動車のはみ出しが禁止されています。 路肩は、舗装が薄いなど簡易な構造になっていたり、構造物が設けられていたり、オーバーレイ舗装で急な横断勾配になっていたり、除雪された雪が積み上げられたりと、歩行者が通常の注意を払って歩行するには問題がなくても、車両が車道を通るときのように安全に走行することはできない構造になっています。

 そのため、路肩走行で事故が起こったときに、道路管理者の立場では、道路の通常の用法に則しないとして管理瑕疵がないと判断する場合も多いと思います。 裁判となった場合には、「事故当時の状況下において、路肩にはみ出して通行する車両のあることが、道路管理者の予測の範囲を超えるものであったか否かを審理すべきである徳島県道トラック転落事件」とされています。 その結果、道路管理者の主張を認めて瑕疵がないとした裁判例がある一方、「道路や交通の状況によっては、車両が路肩を通行しなければならない場合がある(福岡高判昭和59年8月30日)」「渋滞のため法規上通行が許されていない原付が路肩を通行していたことは、特に異常とは言えない大阪国道163号雑草繁茂単車転倒事件」として、路肩走行で大幅な過失相殺をしたものの、道路管理者の瑕疵を認めた裁判例もあります。

 管理瑕疵を問われたか否かを別として、資料に掲載されている裁判例から事故が起きた状況をみると、次のような傾向が見られます 1) 2) 3)

○ 路肩の穴ぼこや段差による事故

 路肩の穴ぼこや段差による事故の裁判例は11件が掲載されています。 そのうち3件は、車線幅が十分にあったとか、路肩をやむを得ず通行せざるを得なかったとは認められないという理由で管理瑕疵がないとされています。 その一方で、8件は、すれ違い時に路肩部分を走行することは予想できたなどの理由で管理瑕疵があるとされ、多くの案件で路肩走行などの理由で5割から8割5分の過失相殺がされています群馬県道段差自転車転倒事件

○ 泥土等の堆積物による事故

 除雪に伴う路肩の泥土などで二輪車が転倒した事故の裁判例が2件掲載されていますが、2件とも道路の管理瑕疵は問われていません(新潟地判平成5年11月30日、東京高裁平成8年9月26日)

○ 路肩崩壊による転落事故

 路肩に乗り入れた結果、路肩が崩壊し車両が転落した事故は27件が掲載されています。 そのうち12件は、路肩に進入することは予定されていないとか、路肩に入らずに離合(すれ違い)が可能だったという理由で、管理瑕疵がないとされています。 その一方で、15件は、管理瑕疵があるとされ、その半分の裁判例で7割以上の過失相殺がされています。

路肩とは

路肩の構造の図

図 路肩の構造

図表出典〕国土交通量HP

歩道等がない道路の路肩

 歩道等がない道路では、車道の外側が路肩になります。 ただし、中央帯や停車帯が設けられているときは、路肩が設けられていないことがあります。

 道路交通法では、この部分を「路側帯」と呼び、歩行者の通行の用などに供し、車両の通行は禁止されています。

車道と歩道等の間の路肩
狭路肩の写真

いわゆる狭路肩

図表出典〕国土交通量HP

 歩道等がある道路では、歩道等と、車道や停車帯、自転車通行帯などとの間が路肩になります。 狭い路肩が設けられていたり、設けられていない場合もあります。

 路肩と車線の間にひかれている白線は車道外側線(103)になります道路標識、区画線及び道路標示に関する命令 別表第四

道路構造令 (昭和36年7月17日政令第265号)
  • (用語の定義)
  • 第二条 この政令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
  • 十二 路肩 道路の主要構造部を保護し、又は車道の効用を保つために、車道、歩道、自転車道又は自転車歩行者道に接続して設けられる帯状の道路の部分をいう。
  • (路肩)
  • 第八条 道路には、車道に接続して、路肩を設けるものとする。ただし、中央帯又は停車帯を設ける場合においては、この限りでない。
  • 7 歩道、自転車道又は自転車歩行者道を設ける道路にあつては、道路の主要構造部を保護し、又は車道の効用を保つために支障がない場合においては、車道に接続する路肩を設けず、又はその幅員を縮小することができる。
車両制限令 (昭和36年7月17日政令第265号)
  • (路肩通行の制限)
  • 第九条  歩道、自転車道又は自転車歩行者道のいずれをも有しない道路を通行する自動車は、その車輪が路肩(路肩が明らかでない道路にあつては、路端から車道寄りの〇・五メートル(トンネル、橋又は高架の道路にあつては、〇・二五メートル)の幅の道路の部分)にはみ出してはならない。
道路交通法 (昭和35年法律第105号)
路側帯の図

図 路側帯

図表出典〕兵庫県警HP

  • (定義)
  • 第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
  • 三の四 路側帯 歩行者の通行の用に供し、又は車道の効用を保つため、歩道の設けられていない道路又は道路の歩道の設けられていない側の路端寄りに設けられた帯状の道路の部分で、道路標示によつて区画されたものをいう。
  • (通行区分)
  • 第十七条 車両は、歩道又は路側帯と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない。(以下略)

路肩部分で起こった事故

徳島県道トラック転落事件 (高松高裁差戻審平成10年11月19日、最高裁判平成9年3月28日)

○ 事故の概要
 昭和57年(1982)。 崖の上端付近まで舗装された舗装幅員約3mの道路で、山側の側溝工事で通行可能幅員が路肩を含めて2.3〜2.4mに減っていた。 通過しようとしたダンプトラックが崖下に転落した。

○ 最高裁判決の要旨
 路肩にはみ出して通行した事実のみをもって瑕疵がないとした原審の判断は誤っている。 路肩にはみ出して通行する車両のあることが、道路管理者の予測の範囲を超えるものであったか否かを審理すべきである。

○ 差戻審の要旨
 工事のため路肩にはみ出して通行することは予測できた。 路肩の崩壊による転落事故であり、道路管理者は車幅の広い車両の通行を禁止するか、標識の設置や誘導員の配置をすべきところ、されていないので通常有すべき安全性を欠いている。
 原告は、ダンプトラックが崖下に転落する可能性を認識し得たので、3割の過失相殺をする 1)

 1) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.213

群馬県道段差自転車転倒事件 (東京高判平成11年10月27日)

○ 事故の概要
 平成7年(1995)。 片側1車線で交通量の多い県道の車道の外側を自転車で速い速度で走行中、舗装された歩道と未舗装の路肩との間の7〜8cmの段差で走行の自由を失い、車道に投げ出され自動車に轢かれて負傷した。

○ 判決の要旨
 自転車が走行していた部分は歩行者の通行の用に供せられていたもので、道路交通法上、自転車の通行が許されない。 歩行者の通行の用に供されているものとして見ると、段差があったとしても通常有すべき安全性を欠いていたとはいえない。 ここを自転車が通行するときは、道路状況に応じた低速で安全な走行がなされることを予測するのが相当で、これを逸脱する危険な態様のもとに起こった事故の責任は負わない 1) 2)

 1) 道路管理瑕疵研究会編集、第四次改訂版 道路管理瑕疵判例ハンドブック、ぎょうせい、2022年、P.215
 2) 群馬県道段差自転車転倒事件道路行政セミナー 2002.3